「土地(terroir)」と「歴史 (histoire)」。


ここにこそ、「食」の文化的価値が存すると我々は考えます。

土地それぞれに様々な表情を持つ自然と

そこに住む人々が根気強く永い対話を続けてきてくれたおかげで

ここ日本でも個性豊かで多様な食文化がこれまで育まれてきました。

豊かな自然の恵みをただ受動的に受け入れるだけではなく、

より能動的に自然に働きかけ、さらに良いものへと改良しつづける営為こそが、

「食」を単なる栄養摂取の行為から「文化」の領域へと昇華する道筋と言えるでしょう。

しかし今、そうした地域に根差した食文化の多様性は危機に瀕しています。


ここ日本では、近代以降、経済大国へ変貌してゆく過程で、あらゆる産業が工業化、国際化されました。

食の世界も例外ではありません。合理化された工場で大量生産された食品や輸入食品への依存度が高くなりました。

かつてそれは、経済成長にともない急増する国民の胃袋を満たすという時代の要請に大量生産という形で

こたえ、近年においては、核家族化して家事に十分な時間を割けない家庭などをインスタント食品や

コンビニ弁当などでサポートし、また一方では、日本が長い円高の時代に突入すると、食品の輸入も

増大しました。今では、わざわざ現地に赴かなくとも、居ながらにして世界中のグルメが楽しめる程に

嗜好の多様化国際化が進展しました。つまり食のインダストリアル化、グローバル化は時代の要請に応じた

必然的なものだったといえそうです。しかしその結果、往々にして競争力の劣る伝統的な生産物の多くは市場

からの退場を余儀なくされました。

すなわち地域の食文化の消失です。


では、このまま地域の食文化は消えゆく運命にあるのでしょうか?

時代の必然だからといって、このまま手をこまねきつづけてよいでしょうか?

かつて人口が右肩上がりに増加していた成長期と異なり、

今や多くの地方自治体が近い将来存亡の危機にさらされるであろうとされています。

「地方創生」にむけた様々な取り組みが各地で始まりました。

地域の食文化の立て直し、すなわち「地産地消」の活動もまた

地域の活性化の一つの柱になりうる可能性があると、我々は考えます。